作品

ディアグラム(改)
第二話「組合」
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第二話「組合」




 凍える空気が大気を白く濁らせていた。
 薄ぼんやりと、暗闇ではない光を保った視界は、今が陽の昇った時間であることを示している。
 白に見えるのは、黒い木の影や、遠くにそびえているだろう尖った黒い山影だけだ。
 時折山影が近づいて、鈍い音を響かせる。どうやら黒く尖る山影の一部は、海に浮かぶ氷の塊のようだ。
 細く高い棘のような葉を持つ木々の森を抜け、冷気が這い上がる氷の海を見下せる切り立った崖の上は、人影も鳥影も、木影もない空間が広がった。
 そこに背丈の低い雑草を揺らして現れたのは、小さい兎である。同時に慌ただしい音が二つ、兎を追いかけて現れた。
 見晴らしのいい岩場の崖に、必死で走る兎に逃げ場がないように思われた。が、
現れた二つの音の正体である二人の狩人らしき人間が背に背負った弓を構え狙いを付けて放った矢は、上手く岩を飛び越えまた森に入った兎の背を捉えることは出来なかった。白い視界の中の黒い草の影に、兎があっという間に姿をくらませる。
 その場に来る前に、そこそこ追いかけっこを続けていたのか、弓が外れたことでどちらともなく歩みを止めて、汚れてこけた無精ひげを蓄えた頬を流れる汗を無造作に拭いつつ忌々し気に息を吐いた。
「くそ、こんな死の海の近くまで来て逃げられちまうとは。こんなんじゃ、商売上がったりじゃねぇか」
 口惜しいと言いたげに吐き捨てる無精ひげに、同じように隣で汗を首に巻いた襟巻で拭く小柄な男が疲れた顔に笑みを混じらせる。
「本当にな。最近じゃ魔物が活気づきすぎて手を出せない上に、数も増えて普通の動物も数を落としてるし。俺達がひやがっちまうのも時間の問題だ」
「おい、そりゃあ冗談にもなってねぇよ」

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著:Kookcat 先生

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