作品

ディアグラム(改)
第一話「勇者」
(66頁)
「ファイアーアロー……ッ!!」
 呪文を唱え剣先に魔法の炎が集約し発射されようとした瞬間、狼はそれを見越していたか、着地と同時に斜め前に飛びのいて避ける。まさに人の認識速度を越えた魔獣の動きで、魔法が発動する前に軌道線上から消えた。
 それでは当たる訳もなく、遥か彼方に飛んで行った炎の矢に驚きを隠せない様子で目を見開くアールに狼は体当たりを繰り出した。
「ぐっ……が、ぁはっ----!!」
 角は上手く脇腹を抜けて行っただけで重傷を免れたが、攻撃を殺しきれず木に体を打ち付けしまった。頭を打ってしまったのか動きを完全に止めたアールは、木の幹の形に添って力なく身を沈める。投げ出した手からはレイピアの感触も消え、瞳を開けて狼の姿を探すことさえ出来なかった。
「うぅ……」
 動かぬ体を叱咤して指先だけでも蠢かせて剣を探す。幸運にもレイピアは近くに落ちていたのか、指先に触れる固い感触がある。何とか引き寄せようと頑張ってはみるものの、滑るだけでうまくいかず、もし引き寄せても本当に剣なのかもわからない。
「グルルルルッ……」
 半分黒い視界アールに低く唸る狼の黒い毛に包まれた四本の足が見えた。
 まだ剣を握ることさえ出来ていない状態のアールでは万策尽きていた。
 ここで死ぬのか?という疑問が声もなく浮かんだ。自分が死んでもダグラを助けなければ。そう思って何とか霞む目を開けて指先に力を込めようとしたが、次の瞬間狼の赤い目が捉えているのが自分だけだと気づいた。
 ダグラの姿を追う訳でも気にしているようでもない。ただアールを今は獲物にしようとしている。
 途端、アールの指先から剣を絶対に引き寄せるという意思が消えた。動かなくった手は力なく地面に落ちた。

(66頁)
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著:Kookcat 先生

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