作品

ディアグラム(改)
第一話「勇者」
(60頁)
 とぼとぼと4、5歳と思われる男の幼子ダグラが、闇の支配する木々の中を一人覚束ない足取りで歩いていた。
 頼りになるのは、右手に持った小さな火が点る小皿に入った油の明かりのみで、背丈の低いダグラの足元さえ満足に照らすことが出来なかった。
「父ちゃーん、父ちゃーん……うぅ、どこー?おにぃ、ちゃん……っ、」
 不安げに歪めた大きな瞳に大粒の涙を溜めて、震え鼻をすする声で闇の先に声をかける。
 勿論、答える声がある訳もなく。ただ派手な羽音を立てて黒い鳥の影が木を揺らし飛び立った音が不気味に響くばかり。
 ダグラは一度足を止めて首を竦めながら、頭上の様子からの襲撃を警戒するように明かりを天高く掲げた。
 それ以上の異変がないのを確認してほっとしたのも束の間、一人であることを思い出し溢れそうになる涙を堪える為に唇を噛んで、また短い足を精一杯に動かし始めた。
 行商に来た村から、街とも言える隣の村に避難したのは、狼の脅威が迫っていると大人たちが言っていたからである。幼いダグラでも行商に行く先々で狼を見たことはあった。犬にも似た面差しに頭を撫でようと近づこうとすれば、父親に食べられるぞと言われ見た牙の鋭さや眼光の強さは遠い記憶ではない。
 がさりっと不意に視界の先にある背の高い草が揺れた気がした。反射的に足を止め、恐る恐る灯を差し出して、動いたものの正体を明らかにする為に目と耳に集中する。何でもないことを願いながらじっと時を待っていれば、また草が風でなく不自然に揺れた。
「ぅう、なに……?」
 怖々と草の背丈と同じダグラの目線の高さから、徐々に下へと視線を落としていく。

(60頁)
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著:Kookcat 先生

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