作品

ディアグラム(改)
第一話「勇者」
(60頁)
「あ、はい。森の中でこけたなどの軽傷者はいますが、大きな怪我をした者や行方不明になっている者は村人にはいませんでした。ただ村にいた行商人の人たちの法では何人か確認が取れていない者もいて、夜明けとともに逃げ遅れがいないか一度捜索隊は派遣するそうです」
「そうか。この村にある『マニディール』支部の偉い方は、どこに?お話したいことがあるんだ」
 村人への被害はないという報告に少しばかり考えるように顎を手で撫でた後、周囲を見回して尋ねる。忙しそうに走り回っているのは、『マニディール』支部の人間のようで、けれどその中で統制を取っている指揮官や発言権のあるお偉いさんを、一目見ただけで判断することは出来なかったらしい。
「あちらに居らっしゃいます」
「そうか。どうやら狼はただの狼ではなく、ホーンウルフという魔物だったらしい。討伐隊や偵察隊を出してもらうにしても、報告をしておかんとな」
「魔物!?」
 村人が魔物だという事実に驚きながら、慌てて広場の奥で各自の報告に耳を傾けている支部の指揮官らしき制服の女性を村長に教えている間も、特に何もすることがなく何となく村長の近くで話を聞いていたアールだったが、不意に何者かの影にぶつかられた。
「すまん。悪い」
 突然のことに面食らいつつ、意識をぶつかって来た影に向けると、そこには先ほどよりも明らかに顔面白くした荷馬車のおじさんが、謝罪もそこそこに歩き出そうとしているのが見えた。
「おじさん!無事だったんですね。良かった」
 早々に人込みを抜けて去っていこうとするおじさんの背を追いかけて、アールは声をかける。アールの存在にその声でやっと気づいたのか、何かを探すように下げていた視線を上げた。目が合った瞬間、血相を変えたおじさんはアールの腕をつっていない方の手でガッと力加減もなく強く掴んだ。

(60頁)
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著:Kookcat 先生

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