作品

ディアグラム(改)
第一話「勇者」
(57頁)
 遮蔽物の少ない広場まではまだ火は回っていなかったが、その隣の家はもう燃えていて熱気は確かに迫っており、そこも火の粉が飛び移ってしまえば安全とは言えないだろう。
 舌を出し荒い息を吐きながら魔狼達は建物を見上げる。建物は丈夫で大きく、魔狼達と言えど壊せるものではない。そして、その後ろに見える木々の後ろには強固に誂えられた最初に入って来た門と同じ木の柵が並んでいるのが頭を出している。
 後ろと左右は炎、前には巨大な建物に、逃げ場さえ失った。
 不意に宿の三階の窓に人影が動いた。魔狼の視線を感じたのか、すぐにその影は窓枠に身を隠したが、確かにそこに人の影を見た魔狼達は、まだ闘志は消えていないのか、宿の入り口に体当たりをする者もいる。
 建物に響く振動に、三階の窓からアールは眼下の様子をよろけながら見下した。魔狼達の最後の馬鹿力ということなのか、強固な宿も全体が揺れている。
 あまりの力に驚きに嫌な汗をかきながら、落ち着くために目を閉じながら深呼吸を一つした。
「ふぅ。落ち着け、落ち着け。……これで、終わり」
 よしっと気合を入れて、姿を隠すのを止めて立ち上がった。抜いたレイピアに置いておいてもらった明かりの松明から火を魔力によって移し、視線の延長線上になるように真っ直ぐにレイピアの細い刀身を構えた。息を整え、目標を定めている間も、胸元のリボンの中央に飾られた赤い石の中には、揺れる炎を映しているのか波のような濃淡が揺れていた。
「……ファイアー、アロー!!」
 いつもより力強く慎重に魔力を形にする為の呪文を唱えた。剣先から赤いオーラのような炎がそのまま細い矢のように、一直線に飛んで行った。
 炎の矢は魔狼に当たることもなく、入口の前付近に積み上げられていた馬車の残骸に直撃し、火の気がなかった広場にわずかばかりの火をつけただけに終わった。

(57頁)
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著:Kookcat 先生

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