作品

ディアグラム(改)
第一話「勇者」
(53頁)
 もうすでに体制を直した影は静かに両手で剣の柄を持ち、半身後ろに構えて、狼を待っていた。
 狼との交差は、一秒にも満たない。口を開いた状態の狼を、殴るように横に振り抜いた剣先が捉えていた。狼の牙が影に届く前に、前足と共に胸を切り裂かれ、地面に肉塊となって落ちる。
 脅威となっていた狼の魔物たちはあっけないという程の短時間で一つの影に下されたのを、スキンヘッドは眼前の光景が信じられないと茫然と見つめていた。
「これで全部か。……いや、報告より少ないな」
 膝をついた状態で体を維持するのが精一杯のスキンヘッドの前に、静かにたたずんでいた黒い影が剣を背中に背負った鞘に収めながら、抑揚の少ない声で言葉を紡いだ。声は若いが、落ち着きに満ちた静かな声である。
 反動で被ってしまったのか姿を見えにくくする為か、顔を隠していた黒いフードを何気なく脱いだ影の輪郭を視界に映し、聞き覚えのある声にスキンヘッドは目を瞬いた。
「テメェは……っ!」
 声でやっと気づいたのか、スキンヘッドに冷たい黒い目を向けた顔は、宿屋で一番最初に狼退治に行くと名乗り出した黒マントの男だった。狼の魔物とあれ程の立ち回りを見せたにも関わらず、女性のように淡い間接的な月明かりにも浮き上がる程の白さを見せる端正な顔には、汗一つ書かず涼しげな無表情を貫いている。
「こ、こんな事ってあるかよ!?俺達は十人以上いたんだぞ!!それがこんな有様で、……っ、何でテメェだけが平気で立っているんだ!!」
 どう見ても奇妙なことだと顔を青くしながら、恐怖を紛らわせるようにスキンヘッドは喚いた。スキンヘッド以外の地に伏せた男の数人は、噛み千切られた四肢や穴が開いた体の痛みに涙を流しながらのたうち回り、呻き声や悲鳴を上げている。更に数人は顔から精気を失い生死すらわからず倒れている者もいた。それなのに、目の前の屈強という程ではない印象の青年は、平然と無傷でそこに立っているのだ。その目で見た事実を知りながら、スキンヘッドは受け入れれらないと首を横に振り、痛みを忘れて男のマントの胸元を掴んでいた。

(53頁)
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著:Kookcat 先生

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