作品

ディアグラム(改)
第一話「勇者」
(53頁)
「グガルルアアアアアァァーー!!」
 狼の雄たけびと共にバキリと、丈夫だと思われた太い丸太で出来ていた門が弾き飛んだ。門を照らしていた松明の炎の火の粉が降りかかるのも気にせず、村に足を踏み入れた黒光りする毛を持つ角の生えた狼の姿を浮かび上がらせる。
 更に次々と門や柵を蹴散らし踏み荒らして十にも届くほどの魔狼が狂ったように中央の道を通って、村の奥に雪崩れ込んだ。
 一直線に魔狼は、中央の道を駆け上がっていく。不自然とも言える程に真っ直ぐに進む。よく見れば、横に逸れ家々の間に張り巡らされた細い道には、藁の塊や木材の山が行く手を阻んでいた。それは明確な意図を持って塞がれているのか、それとも祭りの準備の一つだったのか、不自然に置かれたそれを魔狼はあえて突破することなく中央の道に沿って村を蹂躙していこうとしていた。
 最後の一匹までが村に入ってしばらく、村の中腹に足を踏み入れた魔狼の群れは不意に足を止めて虚空を見上げて鼻を鳴らした。夜空から松明で比較的明るい周囲を警戒するようにその赤い眼で睨みつけるように見回すが、違和感の正体を人の生活の臭いになれていない魔狼は気づかなかった。少なからず警戒している顔つきは危険は感じているのだろう。けれど、それが本当に人の生活の中では異常なのか、そしてそうなっている意味に動物に近い魔狼には想像もつかないだろう。
 その場に人が居れば、村中とまではいかないまでも周囲に満ちる油の臭いに慌てたと想像できる。そこかしこに立てられた松明に染み込まされた油以上のものが、道や家、そして家の間を不自然に塞いでいる障害物にぶちまけられているのだ。今、松明の火が倒れてしまったり、強い風に吹かれて火の粉が飛んでしまうだけでも危ない。
 とはいえ、現実には道には人の影はなく、また村全体に人気は見当たらないので、慌てる存在などいやしないのだが。
 その時ひゅんっと、どこからともなく空気を切り裂く小さい音が聞こえた。耳も良い魔狼は、瞬時に殺気に似た警戒心を持って、音がした虚空に目をやった。だが、音の正体は魔狼達に届くことはなく、何の被害もないまま終わったかに見えた。

(53頁)
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著:Kookcat 先生

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