作品

ディアグラム(改)
第一話「勇者」
(47頁)
 五対の鋭く光る小さな赤い光が草木の合間の闇から男達を見ていた。響く低い唸り声は反響し、幾重にも重なって男達に恐怖と焦りを与えていた。
 夜目を鍛えているとはいえ、鬱蒼とした葉の影に月光は遮られ闇に沈むその場では、正確に周囲の様子を捉えられる者はいなかった。辛うじて隣にいる仲間の姿位は大まかに輪郭を捉えられている程度で、草木に隠れる目の主の獣の姿を視界に映すのは不可能だろう。
 幸いなのは、そこそこ広い獣道のなのか僅かばかり木々が少なくなっている事だろうか。動くのにすぐ木の根に足を引っかけてしまわないというのは、男達には都合が良かったとも言える。だが、それも森を縦横無尽に駆けまわる狼を相手にするには、殆ど意味がない幸運だった。
 正確には暗すぎて見難いがすでに片手で足りぬ程の人数が地面に転がり、ある者は呻き声を上げのたうち回り、またある者は微動だにもしない。
 戦々恐々としながらも武器を手に立っている残り四人の男達も、その爪や牙にかかり少なからず血を滲ませている。
 身構える男たちの中央付近に立っていた大斧を握ったスキンヘッドの男は、どうしてこんなことになっているのか分からなかった。ただの狼相手に村を飛び出し、松明は獲物の狼を逆に見つけにくいと持って来なかった。街道が近くても暗闇に近い鬱蒼とも言える森を歩くことに不安は覚えたが、これだけの人数がいれば簡単な仕事だと思っていた。狼自体は比較的すぐに見つけることができた。村から直線距離にすれば五百メートル程度しか離れていないだろう。
 見つけた瞬間から狼は男達の存在に気付いていた。足音で察したのか、それとも鼻で人の匂いを嗅ぎ分けていたのかもしれない。不意打ちが出来なかったけれど、臨戦態勢になる時間は十分にあった。
 が、実際に対峙してみれば、聞いていたただの狼で無いことはすぐに知れた。まず身体能力が通常の狼よりもはるかに高く、数度体を得物が掠めても狼にダメージが入った気配もなかった。極めつけは、闇にも浮かぶ影の額にそびえ立つ角を見た時に、疑念は確信に変わった。

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著:Kookcat 先生

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