作品

ディアグラム(改)
第一話「勇者」
(47頁)
「『マニディール』の人がいれば何とか出来たかもしれないが。村を捨てて逃げた方がいい。追い付かれたとしても、ここで全員が無駄死にするよりはマシだろう」
「悪いが……俺は逃げさせてもらうぞ!」
 じりじりと後退する商人たちの一人が恐怖に耐え切れなくなったのか我先にと松明を投げ出して、裏門に向けて村を走り去った。他の商人たちも逃げ出したい気持ちが強いのだろう、半分足は逃げ腰で、けれど村人たちをただ見殺しにするにも忍びないと忠告の間だけと足を踏みとどまっていた。
「そ、そんな、村を捨てて、俺たちにどこに行けって言うんだ。アンタたちは関係ないからそんなことが言えるんだ」
 村人たちの中から商人向けて怒声が響いた。中には武器を振り上げて、憎悪に似た視線を向ける者もいた。
 が、それは罵詈雑言や実力行使になる前に、鶴の一声が放たれた。威厳のある声が村人を叱るように場を支配する。
「それ以上言うんじゃない。この人たちは、手を貸してくれようとしたんだ。八つ当たりをしていい訳がない」
 その場にいる人間が全てそれが八つ当たりだと分かっていた。どうしようもない状況に苛立ち、そしてそれを向ける相手が絶対敵わない存在だという事実に、弱い者に矛先を向けようとしていただけだ。叱られた村人たちは一瞬で静かになった後、静かに謝罪の言葉を口にした。
「っ、す、すんません」
「ただ、わしらは逃げる訳にはいかん。女や子どもの命がわしらの後ろにはあるんだからな。時間を稼げば援軍を隣村から期待できるかもしれない」
 商人たちは悪いなと言いながら背を向けて逃げ出すのに、村人たちは誰も逃げることなく、そのまま狼の魔物に立ち向かう道を選んだ。ある者は震える手を握り直し、またある者は気合を入れる為に頬を張ったりしていた。
「さあ、貴方も……」

(47頁)
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著:Kookcat 先生

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