作品

ディアグラム(改)
第一話「勇者」
(42頁)
 正門は裏門とは違う意味で喧騒に包まれていた。
 憎悪を滲ませる低い呻き声は、濡れた空気のように湿度と不快感を持って耳に纏わりつく。
 風に騒めく草木の間に、幾多もの赤い眼と向きだしにされた牙を光らせ、人の営みを囲う柵の中をそれらは睨みつけていた。それは徐々に月光のもとに黒い影を現し、強固なつくりの門を中心に横に広がりを見せて身構える。
 尖った耳に長い尻尾。犬とは同じようで違ったしっかりとした黒いシルエット。黒い影の額に鋭くそびえる角のような突起があった。それを柵ののぞき穴から捉えていた男達は、固唾を飲んで冷や汗が滴る顎を無意識に拭っていた。
 彼らの手には、刃が欠けた剣や錆びた槍、鉈や木で作った簡素な弓などと言った申し訳程度の武器が握られている。同じような人影が、少し離れた位置にも松明を持って、複数見られた。
 狼が一つ唸り声を増して、小枝を折る音が聞こえた。途端、柵が影の突撃を喰らい衝撃に揺れた。それは一度だけではなかった。まるで考えなしに、先人に続けと次々に狼たちは柵へと突撃を繰り返していた。
 混乱に不安げな表情を映し、戸惑いながらも男たちもただ見ていただけではなかった。慌ただしくけん制に弓を射る者や、柵の隙間から剣や槍を突き出す者などの活躍が見られた。
 とはいえ、傷ついても狼の勢いは収まることは知れず、少しずつ強固と思われていた柵に綻びが見え始めていた。
「状況はどうだ?」
 柵の隙間から反撃の機会を窺っていた四人の男達に後ろから、村長は声をかけた。
「村長!まだ柵や門は持ちこたえていますが、中に入ってくるのも時間の問題です。……その方たちは?」
 振り返りつつ村長に報告していた男の目が、村長に同行してきたアールやその他の商人姿の数人を視界にとらえて、首を傾げようか迷う仕草と共に目を瞬いた。柵を守っていた男たちにとっては、イレギュラーな存在だろう。

(42頁)
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著:Kookcat 先生

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