作品

ディアグラム(改)
第一話「勇者」
(37頁)
 パタンと音を立てて完全にしまった扉を気にしながら、ゆっくりと階段を一歩一歩下がっていく。そうしている間に、カウンターの近くで成行きを固唾を飲んで見守っていた食堂の店員が土下座をしていた老人に駆け寄っていた。
「大丈夫ですか、村長?」
 村長と声をかけられた老人は、店員に背を支えながら立ち上がり、膝の汚れを手で払い落す。
「すまんな、心配かけて。狼の方はなんとかなりそうだが、大事に備えて女子供だけでも逃がす準備を急げ」
「わかりました」
 上げた顔は疲れてはいるが、先ほどまで膝をついていた屈辱を嘆いてるわけではなかった。ただ村人を守る為に真剣な瞳をする老人に、店員も慰めの言葉よりもすべきことを思い出し重々と頷きを返していた。早速と老人を残して店員は中にいた他の店員たちにも声をかけて動き始める。
 階段を降り終え、それまで部外者でいたアールは、一人残されていた老人にやっとの思いで声をかけた。
「あの、良かったら、僕もお手伝いさせてください。あまり村のことも詳しくないし、戦うのも馴れてませんが」
「貴方は?」
 突然にかけられた声に老人は目を瞬かせる。村人でもない、呼ばれた「マニディール」でもない、誰とも知らぬ者なのだから無理もない。が、しばらく見つめ合った後、フッと深い皺が刻まれた顔を緩め軽く頭を左右に振り。
「……いや、ありがとうございます。人手不足でしたので、ぜひお願いします」
 今は猫の手でも借りたい状況だというのは、先の会話からでもわかっていた。何者かであるかを聞く間も惜しい。手伝ってくれるのならば、誰の手であってもありがたいと老人は、感謝の念を込めて手を差し出してくる。それを握り返しつつ。
「何をすればいいですか?」

(37頁)
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著:Kookcat 先生

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