作品

ディアグラム(改)
第一話「勇者」
(26頁)
 遠吠えが聞こえた気がして、目を覚ました。
 声自体は遠く、もしかしたら夢の中だったかもしれない。けれど、どこか不安を煽るような危機を感じる声色に心が騒いだ。
 目を擦りながらベッドの上で上半身を起こしたアールは、開け放たれた窓から外の様子に目を凝らしてみる。
「ん〜?……なんか騒がしい?」
 柵の外暗い森の様子はそこからは窺えなかったが、対比して明るすぎる眼下の様子に気が付いた。月は天井を過ぎているものの、まだ朝日が顔を出すにはかなり時間がかかるだろう夜の暗闇の中、目の端を忙しなく動く灯は疑念を抱くには十分だった。
 半分目がくっつきそうなのを我慢して、ふらふらとした足取りで扉に向かい、蝶番が軋まないようにゆっくりと押し開けた。隙間から顔を出して覗き込めば、ガシャガシャと耳障りな金属がかち合う音を響かせて、階下に急ぐ二人組が目の端に映る。
「何かあったのかな?」
 ただならぬ雰囲気に一瞬で眠気が吹っ飛び、首を傾げて呟いていた。そのまま誘われるように足が動き、無意識に階段に近づいていく。
 階段の上の柵に手をかけ覗き込んだ時からでも、下の声はハッキリと聞こえ始めた。呻くような悲痛な懇願と嘲笑するような笑い声が複数聞こえるような気がする。
 室内で夜である為に、松明だけの光源だとやはり薄暗い店内に、階段から覗き込んでいる状態では目を凝らしても全貌は窺えない。微かに見える視界の中、椅子を裏返して乗せられたテーブルは店の両端に押しやられているのがいくつか見えた。
 人の声がするのはもう少し階段から遠いらしい。どこか切迫した気配に、下にいる人間には気づかれない方が聞き耳が立てやすいかと、僅かに背を低くして半ばまで階段を下りてみた。

(26頁)
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著:Kookcat 先生

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