作品

ディアグラム(改)
第一話「勇者」
(26頁)
「俺様たち、勇者に対して『他の客に迷惑だから声を抑えろ』だぁ?お前、誰に口きいてると思ってんだ、あぁ?」
「す、すみません!……けど、ここは、店で……」
 恫喝に一瞬ひるんだものの、口ごもる小さい声で決死の反論を口にしようとした店員に、頭に血が上っていくのがスキンヘッドが赤く染まっていくことで一目瞭然だった。
「口答えなんて、誰が許した!」
「ひ、がぁ!」
 スキンヘッドの腕が振り上がったと思えば、直後店員の顔面に吸い込まれていた。
 拉げる声を上げて後ろにひっくり返った顔は、顎が外れたように口を開き鼻からは血が滴り落ちた。無意識に血を受け止めようと手を押し当てるが、溢れた血は地面を汚す。
「す、すひはぁへん!ゆ、ゆるひへっ!」
 店員は痛みか、それとも恐慌にか涙を讃えた顔を青ざめさせて許しを請うようにスキンヘッドに向かって手を振り回すが、酔いと怒りに頭に血が上っている男には声が届いていないらしい。更に見せつけるように拳を振りあげて、打ち下ろそうとしていた。
 が、その拳が下ろされる前に、スキンヘッドの左肩から背にかけて水飛沫が飛んだ。はじけ飛んだ水と共に地面にぶつかったグラスが粉々に砕け散る。滴る冷たい水に濡れる肩を状況が飲み込めず見下していたスキンヘッドの目が不機嫌に歪められ、吊り上がった眉のまま肩越しにそうなった原因である存在へと向けられた。
 あっと声を上げていた。そこに立っていたのは、大人たちが座るテーブルと同じ背丈くらいしかない幼子のダグラだった。ダグラは、近くのテーブルから水のグラスをひったくりスキンヘッドの男に投げつけたのだ。
 小さい体は緊張と恐怖から、僅かに震えている。けれど、その目は強い光を宿し健気に強面の顔を見据えていた。
「なんだ、このクソガキ」
 威圧を増して近づく巨体を、首を限界まで逸らしてダグラは逃げそうな体を叱咤し、その場に踏み留まり続けた。

(26頁)
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著:Kookcat 先生

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