作品

ディアグラム(改)
第一話「勇者」
(26頁)
「……た、助かった……」
 渦中にいたアールは、何とか凌げた危機に詰めていた息と共に力を抜いた。腰にレイピアを直す頃には、いつの間にか火は霧散し、戻した時は跡形もなくなっている。
「父ちゃん!」
 タッと目の端を掠めた黒い小さい影は、床に倒れたおじさんに一目散に縋く。顔に対し大きい目に涙を溜めて、何とか体を起こした父親を見て更に大粒の涙をこぼしていた。
「大丈夫だ。痛てて……」
 変な方向に曲げられた片手で庇いながら、抱き付くダグラの頭をよしよしと撫でて慰める。ワンワンと泣く子どもに困り果てながら、遠目にいる無表情なマントの男に気付くとおじさんは笑いかけた。
「そこのアンタもありがとうな。コイツを引き止めてくれて」
「僕からもありがとうございます。あなたがいなかったら、ダグラくんも助けれなかった」
 あのままダグラが壁に叩き付けられ大怪我をしていれば、間に合わなかった己が許せなかった。その感謝も込めて腰を深く折って感謝を口にした。
「いや」
 軽く否定の言葉を発し首を振った黒いマントは、すぐにスイッと視線を外してしまう。不機嫌そうな仕草に、何か粗相をしてしまったのかと一瞬で不安になりバット顔を上げ眉を下げた。そのまますたすたとした擬音が適切な足取りで、呼び止める間もなくマントの男は男たちが消えて行った階段を登っていってしまう。
「気を悪くさせちまったかな。……って、いてて」
「父ちゃん」
 突然の行動に狼狽気味におじさんも首を傾げていたが、変に体を動かしたせいか、途端痛んだ怪我に呻き声をあげて背を丸めた。
 今は消えたマントの恩人よりも怪我の方が問題だと改めて気づいたアールは、慌ててしゃがみ込み子どもが縋りつくおじさんの背に腕を回し体を支えた。
「大丈夫ですか?お医者さんに見せた方が」
「診療所まで走ってお医者様を呼んできます」
 近くで同じようにおじさんの様子を見ていた店員が焦った様子で駆けだしていく。
 走り出した店員に悪いなと苦笑いで見送ったおじさんは痛みを飲み込むために一度息を吐いて力を抜いた。

(26頁)
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著:Kookcat 先生

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