作品

ディアグラム(改)
第一話「勇者」
(21頁)
「賑やかですね」
 がやがやと野太い声で騒がしい店内をアールは見渡した。
 荷物を運び終えて行商のおじさんに案内してもらったのは、例の宿屋兼食堂という建物だった。足を踏み入れてすぐの一階部分が食堂のようで、店内には五人ほどが囲める丸テーブルが六つほどが不規則に場を埋めていた。その奥には、キッチンらしい窓の前にはカウンター席も数席用意されている。キッチンの隣には、上階に続くのだろう階段の存在も確認できた。
「何だ。祭りも近いせいか、今日はいつもより人が多いな。席が空いててラッキーだった」
 丁度階上に上がっていった客と入れ違いにテーブルにつけたのは、本当に運が良かった。周りを見渡せば、ビールを片手に騒ぐ集団が大半の席を占拠している。待っていれば、相当待たされたことは容易に想像できた。
 テーブルに備え付けられた日焼けした文字が滲むメニュー表をおじさんが広げるのを何気なく覗き込んだ。
「それよりアンタ意外と根性あるじゃねぇか。今回は助かった。何でも食ってくれ、ここはわしの奢りだ」
「本当ですか?お礼をしたいのはこちらですが、お言葉に甘えされてもらえますか?」
「若いヤツが遠慮してんじゃねぇよ」
 上機嫌にテーブル越しに肩を叩こうと伸ばしてくる手を受け入れて、その笑顔が真意か軽く上目遣いに窺った。やせ我慢ということもない様子なので素直に好意を受け入れておくことにする。
 不意に体の小さなダグラが少々高く足のつかない椅子から飛び降りるように地に足を付けた。
「さきにおしっこしてくるー」
「ダグラ、走るなよ」

(21頁)
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著:Kookcat 先生

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