作品

ディアグラム(改)
第一話「勇者」
(16頁)
「そんなに慌てなさんな。まだ中央国は遠いぞ?あそこの山を越えんとな。けど、ここより先の道は山を越えた所にしか休める街ないから、今日はここまでだ」
 荷物の向こう側、僅かに漏れ光る逆光に差す影が揺れ、そちらから年配らしき男の馬車の騒音に負けないように張り上げた声が聞こえてきた。この馬車の所有者の仲買人の商人で、目の前の子どもの父親らしい気の良いおじさんだ。名前は聞いてはいなかったが、おじさんと違和感なく呼んでいた。
「主要街道だったら、もう少し村……つうか、宿場町の間隔が短い上、夜通し走っても困らん程には明かりがあるんだが。こんな細い道なら仕方ない」
「あのね、あっちの大きい道はとおるのにおカネがかかるから、とおれないんだよ」
 あっちとダグラはコッソリと声を潜めて、道正面から右斜めらしき方向を指さした。つられて向けた視線が突き当たる先には、荷台を覆う少し色あせた布の皺くらいしか見えないが、遮る布を透視するように森の木々を思う。
「フェアアインに行く道もたくさんあるんですね」
 感心したような声を漏らせば、内緒話と言った声も拾っていたのか、僅かに苦笑が混じった声をあげて影が揺れた。
「わしらのような一般人に毛が生えたような行商が毎回使うとなると通行料もバカにならんから、こうして遠回りしてるわけさ。まあ、ついでに道中の村にも荷を下ろしてるが。っと、一旦止まるぞ」
 不意に前に体が引かれるような感覚がして、上下の揺れが停まった。どうどうと馬をいなす声が耳に届く僅かな間をおいて、この荷馬車を操っていたおじさんが天幕を押し上げて顔を見せた。
「父ちゃーん」
 わーいと飛びつくという表現そのままにおじさんに駆けて行ったダグラに、一瞬焦った顔を見せたがすぐに抱き上げていた。微笑ましい様子に自然と笑みが口元に零れるのを自覚しながら、アールも続いて薄暗かった荷馬車の台車から下りた。
「ありがとうございました。助かりました」

(16頁)
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著:Kookcat 先生

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