作品

ディアグラム(改)
第一話「勇者」
(16頁)
「ねぇ、『えいゆう』ってどうやったらなれるの?」
 古い古い誰もが知っている英雄譚。光り輝く剣を高く掲げる勇者が、魔王を倒すお話。
「さぁ、どうやったらなれるのかしらね」
 見上げた高い位置にある赤い唇が笑みを作りながら、とぼけたような言葉を落とす。良い匂いと心地よい声色の美しくて優しい見慣れた女性の瞳が愛おしげに細められたのが、午後の柔らかい日差しに逆光になった中でもわかった。
「おおきくて、つよくなったらなれる?ゆうしゃになれる『まにでぃーる』になったら、なれる?」
 大人になって、大きくなって、強くなったら、僕だって勇者に英雄になれるのだろうか。いや、なりたい。という意味を込めて、自分の絶対の味方である彼女が肯定してくれるのを待つ。
「うーん、そうねぇ。大きくて、強くなって、……それで『誰か』を『守れる』ようになったらなれるかもしれないわね」
「『だれか』を『まもれる』ように?」
 温かな日差しとあやす手つきで引いては寄せる波のように頭を撫でる温かな手の平に、微睡みに沈む瞼が重くなる。頬を寄せたふわりと風に揺れる彼女のスカートから、甘い匂いが香る。
「そう、誰かを守れるくらい、強くなるの。強くなるという本当の意味を、貴方ならわかってくれると信じているわ」
 言い聞かせていた声が一層近づいて額にくすぐったい柔らかい感触が触れる頃、温かい日差しに満ちた安心できる午後の微睡みの世界に、全ては溶けていった------。





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著:Kookcat 先生

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