作品

ディアグラム(改)
第一話「勇者」
(10頁)
「……にいちゃん、……おにいちゃん、おにいちゃん、起きて」
ガタコトと規則正しい大きな揺れに加わった、小さなささやかと言ってもいい振動と共にかけられた少し高い声に、アール・クリセントの意識が浮上した。
「ん?あ、寝てた。フェアアインに着いた?」
 急激に眠りの闇から目覚めのまばゆい光にさらされた目は、まだ周囲の気配をおぼろげに映し出すだけだった。霞む視界をハッキリさせる為、数度瞬きを繰り返しながら手の甲で擦る。
 体が上下に揺れるような振動は、整備が行き届かぬ路面に荷馬車が跳ねる所為だった。荷物らしき木箱が動かないように紐で括り付けられている影に、荷馬車の背後に押しやられている今の状況を思い出す。背後を振り向けば、申し訳程度にはみ出し視界の片隅の垂れている天幕の布切れの隙間に、流れる景色が見えた。眠りに落ちる前は無骨な岩肌が広がっていたが、今は青々とした葉をつけた木々が僅かに拓けた道の両脇を所せましと埋めていた。
「うぅん、まだだよ」
 思えば声の高い誰かと話していたと振り返ると、割と近い場所に子どもの顔があった。子ども特有の丸い雰囲気の顔に無邪気な様子で目が合えばにこっと笑みを浮かべる。名前は確かダグラとか言った気がする。
「ここはまだ『いるむぜはく』」
 いるむぜはく----『イルムゼハク共和国』。拙い子どもの舌足らずの発音を、頭の中で聞き覚えのある言葉に置き換える。それは大陸の西にある国の名前であり、また自分が今まで生きて来た国の名前でもあった。
 この世界は、一つの大陸をもとに大きく五つの国に分かれていた。先言った「イルムゼハク共和国」は西に位置する国。その他、北に位置する国は『ケンベルン帝国』、東に位置する国は『オーヒ王国』、南に位置する国は『ヴァヒリヤス連合王国』となっている。そして、大陸のほぼ中心に位置する中央国「フェアアイン国」は他の四大国に比べ取るに足らない小国と言えるものだが、他国と同等以上の権力と知名度を有していた。

(10頁)
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著:Kookcat 先生

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